Anthropic、Broadcomから100万TPUを直接購入:AI業界の地殻変動
「AnthropicはBroadcomから直接100万個のTPUを購入する予定です」
この一報がAI業界を震撼させています。Claude開発元のAnthropicが、Google設計・Broadcom製造のTPUv7 Ironwoodを約100万個、総額210億ドル(約3.2兆円)で購入することが明らかになりました。
これは単なる大型契約ではありません。クラウドを介さず直接購入するという前例のない取引形態が、NVIDIA一強時代の終焉を告げる転換点となる可能性があります。
取引の全貌:210億ドルの内訳
Broadcom CEOのHock Tanは、2025年第4四半期の決算発表で「謎の100億ドル顧客」の正体がAnthropicであることを明かしました。
| フェーズ | TPU数量 | 金額 | 形態 |
|---|---|---|---|
| 第1フェーズ | 約40万個 | 100億ドル | 直接購入(Anthropic所有) |
| 第2フェーズ | 約60万個 | 110億ドル | GCP経由レンタル |
| 合計 | 約100万個 | 210億ドル | ハイブリッド |
注目すべきは第1フェーズの直接購入です。通常、TPUはGoogle Cloud Platform(GCP)を通じてのみ利用可能でした。しかし今回、AnthropicはBroadcomから直接システムを購入し、自社管理の施設に配備します。
Google × Anthropic = 新しいスケーリング則?
この取引は、AI業界の勢力図を根本から変える可能性を秘めています。
従来の構図:
- Google:TPUを設計、自社クラウドでのみ提供
- Broadcom:TPUを製造、Googleにのみ納品
- AI企業:GCPを通じてTPUをレンタル
新しい構図:
- Google:TPU設計、NVIDIAと同様のマーチャントハードウェアベンダー化
- Broadcom:AI企業に直接販売する立場へ
- Anthropic:クラウド依存から脱却、垂直統合へ
SemiAnalysisは「GoogleがNVIDIAと真のマーチャントハードウェアベンダーとして直接競争する位置づけになった」と分析しています。
1ギガワットの計算能力:その規模感
Anthropicは2026年に1ギガワット以上のAI計算能力をオンラインにする予定です。
1ギガワットとは:
- 米国の90〜100万世帯を電力供給できる規模
- 大規模原子力発電所1基分の出力に相当
- 現在の最大規模AIクラスターを遥かに超えるスケール
これだけの計算リソースがあれば、現在のClaudeを大幅に上回る次世代モデルの訓練が可能になります。
TPUv7 Ironwood vs NVIDIA GB200:性能比較
なぜAnthropicはNVIDIAではなくTPUを選んだのでしょうか。
| 仕様 | Google TPUv7 Ironwood | NVIDIA GB200 |
|---|---|---|
| FP8性能 | 4.6 petaFLOPS | 5.0 petaFLOPS |
| メモリ容量 | 192 GB HBM3e | 192-288 GB HBM3e |
| メモリ帯域 | 7.4 TB/s | 8.0 TB/s |
| 最大接続数 | 9,216チップ/ポッド | 72 GPU/システム |
| TCO(総所有コスト) | 基準 | +30〜44%高い |
生のスペックではNVIDIAが若干優位ですが、TCO(総所有コスト)でTPUが圧倒的に有利です。SemiAnalysisによると:
- Google内部でのTPUv7サーバーTCO:NVIDIAより44%低い
- 外部顧客(Anthropic)向けでも:30%低い
- 実効訓練コスト(MFU 40%達成時):50-60%低い
「脅威ディスカウント効果」:業界を変えるダイナミクス
SemiAnalysisが名付けた「脅威ディスカウント効果(Threat Discount Effect)」が、AI業界の力学を変えています。
そのメカニズムはシンプルです:
- TPU採用を検討していることをNVIDIAに示唆
- NVIDIAが市場シェアを守るため値下げ交渉に応じる
- 結果として30%以上のコスト削減を実現
実例:
- OpenAI:TPU採用の脅威で30%ディスカウントを獲得
- Anthropic:TPUでGPT-4を超えるモデルを訓練可能と証明
- Meta:2027年からのTPU導入を交渉中
「NVIDIAの75%粗利益率という神話は、もはや揺るぎないものではない」とSemiAnalysisは指摘しています。
Broadcom:隠れた勝者
この取引で最も利益を得るのは、実はBroadcomかもしれません。
Broadcomの役割の変化:
| 従来 | 現在 |
|---|---|
| TPU製造の受託業者 | AI企業への直接サプライヤー |
| ハイパースケーラーへの部品供給 | 完成システムの販売 |
| 背後の存在 | AI半導体市場の主要プレイヤー |
株式アナリストは「Broadcomは計算能力移転の見えざる勝者」と評価しています。
NVIDIAの80%シェアは崩壊するか
現在、NVIDIAはAIアクセラレータ市場で80%以上のシェアを誇ります。しかし、この構図は2026年に変わる可能性があります。
注目すべき事実:
- 世界で最も先進的な2つのAIモデル—Claude Opus 4.5とGemini 3—は主にGoogle/AmazonシリコンでトレーニングされたNVIDIA GPUではない
- Midjourney:H100からTPUへの移行で月間推論コストが210万ドル→70万ドルに削減(年間1,680万ドルの節約)
- Meta:2027年からTPU導入を検討中
- Apple、Cohere、Ilya SutskeverのSSIもTPU採用を確認
2026年は「GPU独占が崩れた年」として記憶される可能性があります。
Anthropicのマルチチップ戦略
Anthropicは単一のチッププラットフォームに依存しない、分散型の計算戦略を採用しています。
| プラットフォーム | パートナー | 用途 |
|---|---|---|
| TPU | Google / Broadcom | 大規模訓練・推論 |
| Trainium | Amazon | AWS連携・訓練 |
| GPU(NVIDIA) | NVIDIA | 汎用計算・互換性 |
Amazonは累計80億ドルをAnthropicに投資(Googleの30億ドルの2倍以上)。AWSは依然として主要クラウドプロバイダーですが、計算能力の拡張ではGoogleが主導権を握りつつあります。
まとめ:新しいスケーリング時代の幕開け
今回の取引が意味すること:
- クラウド依存からの脱却:AI企業が自社インフラを所有する時代へ
- NVIDIA一強の終焉:TPUが真の競争相手として台頭
- Googleの戦略転換:クラウド専用からマーチャントハードウェアへ
- Broadcomの躍進:AI半導体の直接サプライヤーとしての地位確立
- コスト効率革命:30-50%のTCO削減が標準に
「Google × Anthropic = 新しいスケーリング則?」という問いへの答えは、2026年の次世代Claudeモデルで明らかになるでしょう。
100万個のTPU、210億ドルの投資、1ギガワットの計算能力—これがAI時代の新しいスケールです。
ソース:CNBC / SemiAnalysis / Anthropic


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