ディレクトリ登録の栄光と没落:Yahoo!カテゴリとDMOZが支配したSEO時代
「Yahoo!カテゴリの審査、通りましたか?」
2008年、この挨拶がSEO業界では日常的に交わされていました。新しいWebサイトを立ち上げたら、まず最初にやることはYahoo!カテゴリへの登録申請。審査料5万円(税抜)は、サイト運営の「必要経費」として当たり前のように予算化されていました。
しかし2018年3月29日、Yahoo!カテゴリはひっそりとその歴史に幕を下ろしました。そして2017年3月17日には、世界最大のディレクトリだったDMOZも終了。
かつてインターネットの道しるべだったディレクトリ登録は、なぜ栄光を極め、そして消えていったのか。その壮大な物語を紐解いていきます。
📑 目次
はじめに:5万円の審査料が「必要経費」だった時代
「Yahoo!カテゴリの審査、通りましたか?」
2008年、この挨拶がSEO業界では日常的に交わされていました。新しいWebサイトを立ち上げたら、まず最初にやることはYahoo!カテゴリへの登録申請。審査料5万円(税抜)は、サイト運営の「必要経費」として当たり前のように予算化されていました。
しかし2018年3月29日、Yahoo!カテゴリはひっそりとその歴史に幕を下ろしました。そして2017年3月17日には、世界最大のディレクトリだったDMOZも終了。
かつてインターネットの道しるべだったディレクトリ登録は、なぜ栄光を極め、そして消えていったのか。その壮大な物語を紐解いていきます。
第1章:ディレクトリの誕生 – 人力で整理された図書館(1994年〜1998年)
1994年:Yahoo!の始まり
スタンフォード大学の学生だったジェリー・ヤンとデビッド・ファイロが、「Jerry and David’s Guide to the World Wide Web」を作成。これが後のYahoo!ディレクトリの原型となりました。
当時のインターネット環境:
- Google:まだ存在しない
- 検索技術:原始的なキーワードマッチング
- Webサイト数:全世界で約3,000サイト
ディレクトリの必要性
なぜディレクトリが必要だったのか?答えは簡単です。
「検索エンジンがまともに機能していなかったから」
1995年の検索体験:
検索ワード:「レストラン」
検索結果:
1. レストランという単語が100回書かれたスパムページ
2. 「レストラン」という名前の犬の写真
3. レストランとは関係ない通販サイト
人力による品質保証
ディレクトリは「人間が実際に見て、分類する」という画期的な解決策でした。
Yahoo!カテゴリの初期カテゴリ(1995年):
芸術と人文科学
ビジネスと経済
コンピュータとインターネット
教育
エンターテインメント
政府
健康
ニュースとメディア
レクリエーションとスポーツ
参考資料
地域情報
科学
社会と文化
第2章:黄金時代 – ディレクトリがWebの入り口だった頃(1998年〜2005年)
1998年:DMOZの誕生
1998年6月5日、「GnuHoo」として誕生(後に「NewHoo」、そして「DMOZ」へ)。
DMOZの革新性:
- オープンソース(誰でも編集者になれる)
- 無料登録(Yahoo!は有料化へ移行)
- 多言語対応(日本語カテゴリも充実)
ディレクトリ登録のSEO効果
この時代、ディレクトリ登録は絶大な効果を持っていました。
2000年代前半のSEO方程式:
Yahoo!カテゴリ登録 = Yahoo!検索で上位表示
DMOZ登録 = Google PageRankの向上
大手ディレクトリ登録 = 信頼性の証明
日本独自の発展:Yahoo! JAPAN
日本では特にYahoo!カテゴリの影響力が強大でした。
Yahoo! JAPANのシェア(2005年):
- 検索エンジンシェア:約65%
- ポータルサイトシェア:約70%
- 「ヤフる」が流行語に
第3章:商業化とビジネスエクスプレス(2001年〜2010年)
2001年:Yahoo!ビジネスエクスプレスの開始
Yahoo!は有料審査サービスを開始しました。
料金体系:
一般的なWebサイト:52,500円(税込)
アダルト・ギャンブル等:157,500円(税込)
審査期間:7営業日以内
登録保証:なし(審査料は返金されない)
ディレクトリ登録ビジネスの隆盛
主要ディレクトリサービス(2008年頃):
- Yahoo!カテゴリ
– 審査料:52,500円
– 権威性:最高
– 難易度:高い
2. Jエントリー
– 審査料:36,750円
– 権威性:高
– 難易度:中
3. クロスレコメンド
– 審査料:42,000円
– 権威性:高
– 難易度:中
4. iディレクトリ
– 審査料:10,500円
– 権威性:中
– 難易度:低
SEO業者の「ディレクトリ登録代行」
この時代、多くのSEO業者が生まれました。
典型的なSEOパッケージ(2007年):
基本プラン(月額10万円):
✓ Yahoo!カテゴリ登録代行
✓ DMOZ登録申請
✓ 大手ディレクトリ10件登録
✓ 中小ディレクトリ50件登録
✓ 月次レポート作成
第4章:衰退の始まり – アルゴリズムの逆襲(2005年〜2012年)
2005年:Yahoo!の方針転換
Yahoo!がデフォルトの検索をディレクトリ型からロボット型(YST)に変更。
影響:
- カテゴリからの直接流入が激減
- 「被リンク効果」だけが残る
- 登録の費用対効果が悪化
2010年:Yahoo! JAPANがGoogleエンジン採用
日本のSEO業界に激震が走りました。
「Yahoo!がGoogleの検索エンジンを採用」
この瞬間、Yahoo!カテゴリの「検索順位への直接的影響」は消滅しました。
2011年〜2012年:Googleペンギンアップデート
Googleが有料リンクに対する取り締まりを強化。
ペンギンアップデートの標的:
- 有料ディレクトリからの大量リンク
- 低品質ディレクトリからのリンク
- リンクファーム化したディレクトリ
第5章:終焉 – ディレクトリの死(2014年〜2018年)
2014年12月:Yahoo!ディレクトリ(米国)終了
創業から20年、ついにYahoo!の原点が消えました。
2017年3月17日:DMOZ終了
DMOZ最後の統計:
- 登録サイト数:5,169,995
- カテゴリ数:1,017,500
- ボランティア編集者:91,943人
- 対応言語:90言語
2018年3月29日:Yahoo!カテゴリ(日本)終了
終了時のアナウンス:
「インターネットの利用環境が大きく変化する中、
Yahoo!カテゴリの役割を終えたと判断いたしました」
第6章:なぜディレクトリは滅んだのか
1. スケーラビリティの限界
Webサイトの爆発的増加:
1995年:約23,000サイト
2000年:約1,700万サイト
2005年:約6,400万サイト
2010年:約2億サイト
2018年:約16億サイト
人力での分類は不可能になりました。
2. 検索技術の進化
Googleの技術革新:
- PageRankアルゴリズム(1998年)
- 自然言語処理の進化
- 機械学習の導入
- AIによる検索意図の理解
3. ディレクトリの質の低下
末期のディレクトリの実態:
- スパムサイトの大量登録
- 審査の形骸化
- カテゴリの混乱
- 更新の停滞
4. ユーザー行動の変化
検索行動の進化:
1998年:「Yahoo!トップページ → カテゴリ → サイト」
2008年:「検索窓に入力 → 検索結果 → サイト」
2018年:「音声検索 → 即座に回答」
第7章:ディレクトリが残した遺産
SEOの基本概念
ディレクトリ時代に生まれた概念は、今でも生きています:
- カテゴリーの重要性
– サイト構造の最適化
– パンくずリストの実装
– 適切な分類とタグ付け
2. 人間による評価
– E-E-A-Tの概念
– 手動レビューの存在
– 品質評価ガイドライン
3. 信頼性の指標
– ドメインオーソリティ
– トラストランク
– ブランドシグナル
現代に生きるディレクトリ
完全に消えたわけではありません:
現存する有益なディレクトリ:
- 業界特化型ディレクトリ(医療、法律等)
- 地域ビジネスディレクトリ(Googleビジネスプロフィール)
- B2Bディレクトリ(企業間取引)
- ニッチ分野の専門ディレクトリ
エピローグ:人間とアルゴリズムの共存
ディレクトリ登録の思い出
2009年、私が運営していた小さなECサイトがYahoo!カテゴリに登録されたときの喜びは、今でも忘れられません。
件名:【Yahoo!カテゴリ】審査結果のお知らせ
お客様のサイトは、Yahoo!カテゴリへの
掲載が決定いたしました。
掲載カテゴリ:
ショッピング > ファッション > バッグ、かばん
掲載開始日:2009年4月15日
あの瞬間の達成感は、どんなSEOツールでも再現できません。
最後のメッセージ
ディレクトリは確かに時代遅れになりました。しかし、その精神は今も生きています。
ディレクトリが教えてくれたこと:
- 適切な分類の重要性
- 人間の判断の価値
- 信頼性の構築方法
- コミュニティの力
2025年の今、私たちはAIと共にWebを作っています。でも、「人間が見て、価値があると判断する」という基本は変わりません。
ディレクトリは形を変えて、今も私たちの中に生きているのかもしれません。
Yahoo!カテゴリよ、DMOZよ、そしてすべてのディレクトリよ。
インターネットの道しるべとなってくれて、ありがとう。
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かつて5万円を払ってでも登録したかったディレクトリ。その価値は、お金では測れない経験と学びを私たちに残してくれました。
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