【Claudeがスタートアップを殺した】成約率70%→20%に急落、AIプラットフォームリスクの現実

「今朝、目覚めたらClaudeに殺されていた。」

サンフランシスコの起業家Ira Bodnar氏のこの一言が、AI業界に激震を走らせている。彼女が率いる広告運用AIスタートアップRyze AIは、2ヶ月で数百社の有料顧客を獲得し、成約率70%で急成長中だった。ところがある朝、ClaudeとManusがMeta Ads連携をリリース。その瞬間、成約率は一夜にして70%→20%に急落した。

Ira Bodnar氏の投稿より:

「I woke up today and Claude killed my startup. We got several hundred paying clients in 2 months, was growing like crazy. One Claude/Manus feature and our close rate dropped from 70% to 20%.」

@irabukht(閲覧数432万回、いいね8,346件)

この投稿は公開から2日で432万回以上閲覧され、世界中のスタートアップ創業者に衝撃を与えた。「AIプラットフォームが本気を出したら、薄いラッパーは即死する」という現実を突きつけたのだ。

この記事では、Ryze AIに何が起きたのか、そしてAIスタートアップが直面する「プラットフォームリスク」の本質と、Bodnar氏が語る7つの未来予測を徹底解説する。

Ryze AIの成約率が70%から20%に急落したグラフ
目次

Ryze AIに何が起きたのか?一夜で消えた競争優位

Ryze AIは、Google広告とMeta広告のアカウントをAIエージェントに委ねて自動運用できるツールだった。クライアントがアカウントへのアクセス権を渡すだけで、AIが広告キャンペーンの管理を自動化してくれる。シンプルで強力なプロダクトだ。

わずか2ヶ月で数百社の有料顧客を獲得し、成約率70%という驚異的な数字を叩き出していた。スタートアップとしては理想的なプロダクトマーケットフィットだったと言える。

しかし、AnthropicのClaudeとManusがMeta Adsコネクタを公式リリースした瞬間、状況は一変した。

指標 リリース前 リリース後 変化
成約率 70% 20% ▼71%減少
顧客の反応 「すごい、即契約」 「Claudeで無料でできるよね?」 価値消滅
競合状況 差別化された専門ツール 汎用AIの無料機能 カテゴリ消滅

Bodnar氏は冷静に分析する。「現時点では、Claudeはまだ広告アカウントの変更はできない。分析機能のみで、Google Adsにも非対応だ。しかし数ヶ月後にはフル対応するだろう。だからこの領域で何かを作ること自体が無意味に感じる。」

Claude Meta Ads機能の進化タイムライン

「薄いラッパーは即死する」──プラットフォームリスクの構造

この事件が示すのは、AIスタートアップが直面する構造的なリスクだ。チャエン氏(@masahirochaen)はこの件を以下のように要約している。

つまり「AIプラットフォームが本気を出したら、薄いラッパーは即死する」という現実だ。これは2010年代にFacebookやGoogleがサードパーティアプリの機能を取り込んで殺した「プラットフォームリスク」の、AI時代版と言える。

しかし今回の変化はさらに速い。従来のプラットフォームリスクは年単位で進行していたが、AIの世界ではたった一つの機能追加で、一夜にしてカテゴリごと消滅し得る。

AIプラットフォームリスクの構造図

GTMツールの「生死」が分かれる基準

Bodnar氏は、GTM(Go-to-Market)ツールの今後を「安全な領域」と「危険な領域」に分類している。生き残るのは「AIが自力で代替できないデータや複雑性」を持つ領域だ。

🟢 当面安泰な領域
CRM 顧客データの蓄積 Claudeは顧客データを保存できない
リードDB Clay、Apollo、RB2B等 10億件の電話番号・メールをAIは収集できない
エンタープライズ複雑WF CDP、大規模顧客エンゲージメント 複雑性がAI単独では代替困難
ニッチツール サーバーサイドトラッキング等 専門インフラは代替が難しい
🔴 消滅の危機にある領域
アウトリーチ自動化 DM・メール一斉送信 「YC創業者全員にDM送って」で終わる
アウトリーチインフラ ドメイン取得・設定 エージェントが自走で完結
クリエイティブ制作 広告バナー・動画 Meta/Googleが管理画面内で直接生成へ
広告運用代行 Ryze AI等のラッパー プラットフォームが公式対応済み
GTMツールの生存マトリクス:安全な領域と危険な領域

投稿者が語る7つの未来予測

Bodnar氏は、この経験を踏まえてAI時代のマーケティングと流通に関する7つの未来予測を提示している。どれも衝撃的だが、論理的に筋が通っている。

① MCPは新しいApp Store

AIがMCP(Model Context Protocol)経由でツールを選択する時代が来る。従来のApp Storeではユーザーが比較・選択していたが、MCPではAIが最適なツールを自動選択し、ユーザーは代替案を見ることすらない。これは2008年のiPhone App Store前夜と同じ構造だという。

② LLM内広告が次の兆ドルチャネルに

Googleがウェブサイト同士を繋いだように、チャットボット同士を繋ぐ広告ネットワークが生まれる。この広告ネットワークを構築する企業は「世代を定義する企業」になるとBodnar氏は予測する。

③ AIエージェントはブランドに課金しない

人間はブランドに惹かれて購入するが、AIエージェントはスペック比較→最安値→即決で判断する。結果として、全カテゴリがコモディティ化に向かう。

④ AI対AIセールスが企業営業を壊す

従来の企業営業はデモ、関係構築、チャームが重要だった。しかしAIエージェントはドキュメントと価格だけで判断する。デモを見ない。魅了されない。営業の本質が根本から変わる。

⑤ SNSの98%がAI生成+Bot拡散に

すでに兆候はあるが、TikTokやInstagramの98%がAI生成コンテンツ+Bot拡散になる日は近いとBodnar氏は警告する。

⑥ ブランドが最後の堀になる

技術的な差別化が困難になる中で、ストーリー、信頼、センスだけがAIで複製できない最後の「堀」(moat)になる。人間に売るための最終防衛線だ。

⑦ マーケターの格差が爆発的に拡大

AI生成の低品質コンテンツは誰でもほぼ無料で量産できるが、効果は出ない。センス、バイラル感覚、ストーリーテリングが唯一の差別化要因になり、マーケターの間に圧倒的な格差が生まれる。

Ira Bodnar氏の7つの未来予測

Ryze AIのピボット戦略──「死なない」ための選択

しかしBodnar氏は諦めていない。Ryze AIはすでに数週間前からピボットを開始していたという。

新たな戦略は2つだ。

1. エンタープライズ向け複雑ワークフロー

数百のアカウントを管理する大規模広告代理店向けに、複雑なワークフローを構築する。Bodnar氏によると、「クライアントの中には6人で600アカウントを管理している代理店もある。かなりクレイジーだ。」

2. SMB向けAIネイティブ広告代理店サービス

テキサスのガソリンスタンドのような中小企業向けに、AIと人間が連携した広告代理店サービスを提供する。ツールではなく、サービスとして価値を提供する方向への転換だ。

Bodnar氏のメッセージ:

「Our current business will be fine anyway. We knew what was coming and started actively pivoting a few weeks ago.」

(我々のビジネスは大丈夫だ。何が来るか分かっていたので、数週間前からピボットを始めていた。)

Ryze AIのピボット戦略フロー

「ビルドが無料の世界」で勝つために

チャエン氏はこの事件から抽出した最大の教訓を、こう締めくくっている。

「ビルドが無料になった世界では、届ける力(ディストリビューション)が全て。ツールは死ぬ。でも泥臭く動き続ける人間は死なない。」

AIで「作る」コストがゼロに近づく今、勝敗を分けるのは何を作るかではなく「誰にどう届けるか」だ。

  • あらゆるチャネルを試す
  • 当たったものを見極める
  • それを10,000倍のスケールでやり切る

この「泥臭い実行力」だけは、AIには置き換えられない。エンジニアもマーケターも経営者も、全員が向き合うべきテーマだ。

プラットフォームリスクを恐れてビルドをやめるのではなく、AIに代替されない「堀」──独自データ、複雑性、ブランド、ディストリビューション──を持つことが、AI時代のスタートアップに求められている。

AI時代の勝敗を分ける要素:ディストリビューションが全て

まとめ:AI時代のスタートアップが学ぶべき教訓

Ryze AIの事例は、すべてのAIスタートアップが直面し得る現実を象徴している。

教訓 詳細
薄いラッパーは死ぬ AIプラットフォームが公式対応した瞬間にカテゴリごと消滅する
データと複雑性が堀 CRM、リードDB、エンタープライズWFなど独自の資産を持つ
速度が命 「数週間前から」ピボットを始めていたRyze AIのように先読みが不可欠
ディストリビューションが全て ビルドが無料の世界では「届ける力」だけが差別化要因
ブランドは最後の防衛線 ストーリー、信頼、センスはAIが複製できない唯一の価値

AIプラットフォームとの共存を前提にしたビジネス設計が、これからの時代には必須となる。あなたのプロダクトは、Claude一つの機能追加で消えない「堀」を持っているだろうか。その問いに、今すぐ向き合うべきだ。

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